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(岩崎夏海)「ゲームの歴史」(講談社)炎上の理由(スティーブ・ジョブズ?)

講談社から2022年11月に販売された『ゲームの歴史』(岩崎夏海、稲田豊史著)が「トンデモ本」なのではないかと、ゲーム界隈、Twitter上で騒がれているらしい。

 

岩崎夏海氏といえば、ミリオンセラー「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者である。

 

俺も昔意識高い系ぶった啓蒙書愛好家(笑)だったので、氏の本を拝見してそこそこ感銘を受けたものだが、炎上とはおだやかではない。

 

一体、何があったのか?

 

結論から言えば、講談社より出版された『ゲームの歴史』は「歴史の本ではなくてエンターテイメント本」であり、現代の「古事記」「日本書紀」である。

 

炎上事件の概要

「ゲームの歴史」とは

「ゲームの歴史」(全3巻)は「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者である岩崎夏海氏と、ライターの稲田豊史氏による著書であり、2022年11月に講談社より発売された。

 

「ゲームの歴史 1」では、「本書は『ゲームの歴史』について書いた本です。ここでのゲームとは、いわゆるコンピューターゲームのこと。(略)ゲームはいまや一大エンタティメント産業となりましたが、その成り立ちを順を追って網羅的に書いたものが本書です」とある。

 

第1章から第8章まで、アタリやファミコンなど懐かしいキーワードが並び、ゲームファンでなくとも、在りし日を思い出し、思わず書棚に手が伸びてしまいそうな内容になっている。

 

「ゲームの歴史」の何が問題か

同書に対して、2023年3月ごろから、「内容が事実と異なるのではないか」「事実のでっちあげではないか」など、同書に対する批判の声がTwitter上であがるようになった。

 

「ゲームの歴史」を批判する声は、ゲーム業界の関係者からあがっているものだ。

 

事実と異なる、でっちあげだと言われている箇所の具体例として、「ポケモンはメンコから発想を得ている」など。

 

「ポケモン」シリーズの製作に関わったシナリオライター・とみさわ氏は、これを明確に否定している。

 

ほか、iモードに関する記述にも誤りがあるとして、現ドワンゴ専務取締役COOであり、iモードの立ち上げに携わった栗田穣崇氏は「自説を展開したいがために、事実と異なる部分をあえて無視、もしくは拡大解釈して説明している」と批判している。

 

IT系ライターの西田宗千佳氏からも「思い付きから歴史を逆算して当てはめたであろう不整合が多いのが難点」「歴史の名を冠するべきでない内容」と激辛のコメントがなされている。

 

岩崎夏海の反論

これらの批判の声に対して、著者の一人である岩崎夏海氏は以下のように反論している。

 

「データを用いるとその用い方の恣意性に際限がなくなってかえって本質から逸れるし、主観というけど化学じゃないんだからゲームの世界に客観など存在しないので、この手の意見には全く与しない」(原文ママ)

 

出版元である講談社は、「事実誤認について、編集部と著者で確認作業を行っている」と回答。

 

さて今後の展開は、ということで、今に至っているわけだ。

 

岩崎夏海とは

岩崎夏海の経歴

岩崎夏海氏は放送作家であり、小説家でもある。

 

高校時代には軟式野球部で投手を務めたこともあり、これがのちの「もしドラ」へと繋がったのだろうか。

 

放送作家としては「とんねるずのみなさんのおかげです」や「ダウンタウンのごつええ感じ」などのテレビ番組製作に参加。

 

2005年から2007年までAKB48アシスタントプロデューサーも務めている。

 

大変にやり手な放送作家だな。

 

その後、作家活動も開始。

 

初作品にしてミリオンセラーとなる「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を発表した。

 

岩崎夏海=スティーブ・ジョブズ?

岩崎夏海氏はかつて自身のブログで、「なぜ ぼくのことをスティーブ・ジョブズのような人間だと思わないの?」「ぼくのことをすごいとは思わないの?」など20近くの「奇妙な」質問を読者にぶつけて話題になったことがある。

 

これについて、大ヒットマンガ「となりの801ちゃん」の作者・小島アジコさんから、「だって、(岩崎さんは)macもi-padも作ってないじゃないですか」と突っ込まれている。

 

ミリオンセラー作家であり、放送作家としての経歴もさるものなので、岩崎夏海氏はかなり自信家でいらっしゃるのだろうか。承認欲求も人よりも高そうだ。

 

さすがに和製スティーブ・ジョブズを名乗るのは、ちょいと無理があるのではないかと思うが。

 

「ゲームの歴史」炎上に関するコメント

Yahoo!ニュースでは、2023年3月17日現在で881件ものコメントが書き込まれている。

 

主だったコメントを紹介すると。

 

「客観的事実を抜きにして歴史を語るなど、歴史家ひいては歴史そのものに対する冒涜以外の何物でもないでしょう。この筆者の酷さはもちろんですが、事実確認を怠った講談社の責任も大きいのでは」

 

「「ゲームの歴史」っていう題名なのに「ゲームの世界に客観など存在しない」って意味わかりません。化学じゃないんだからというけど、歴史なんてより客観的な事実が重視されると思うんだけど?自分に都合の良い主観的ななんちゃって歴史を垂れ流したいなら、チラシの裏にでも書いて下さい。」

 

「客観的に扱うべき部分と主観的でもいい部分を混同している気がする」

 

「業界関係者や当事者からあらゆる項目にわたって総ツッコミが入っていますね。これがネット記事とか個人のブログならまだ「バカだなあ」と笑っていられますが、講談社という名のある出版社から『ゲームの歴史』なんていう大仰なタイトルで発行されたことは問題だと思います。今後、この誤りだらけの本を出典として間違った歴史が広まる可能性があるからです(さすがにここまで炎上したから大丈夫だと思いますが)。当事者でもない、当事者に取材したわけでもない、エピソード等の出典も示さないででたらめばかりが書かれた本ですから、回収するべきではないでしょうか」

 

まさに炎上。袋叩きだ。

 

歴史という冠の重さ

「歴史は現在と過去の対話である」

 

イギリスの政治家にして、国際政治学者、外交官でもあった、E・H・カーはこういった。

 

カーは「客観性」のみで歴史を記述しようと試みた近代歴史学を否定したことで有名である。

 

そもそもが「歴史の出来事」自体が、それを事実として記録した人間の主観が込められているものである。

 

つまりは「完全に客観的な姿勢」などはない、ということだ。

 

そのうえで、その主観性が入り込んでいる事実をしっかり受け止め、その著者がどのような歴史観や考え方をしているのか見極めなければならない、としている。

 

「歴史は勝者によって作られる」なんて言葉もあるわけだ。

 

思えば、奈良時代に記された「古事記」「日本書紀」なども、その記述がどこまで実際の歴史を反映しているのか疑わしいところが多い。

 

時の権力者の権威を高めるために、「そうなってしまった」歴史もあるのが事実だろう。

 

ゆえに、「古事記」「日本書紀」は『歴史書であり神話でもある』のだ。

 

今回の岩崎夏海氏の「ゲームの歴史」は、『歴史』という冠がやや重かったのかもしれない。

 

「ゲームの歴史」は「歴史書でありエンターティメントでもある」のだ。

 

作家なのだから、「僕なりにまとめたゲームの歴史」とでも銘打っておけば、炎上などはしないで済んだかもしれない。

 

個人的には、「奈良時代の書籍と違い、ゲーム制作者が存命でしかも記録が大量に残っているのだから、最低限度のことは調べるか、製作者にインタビューぐらいはしてから書けよ」って思ってしまうところはあるのだが。

 

E・H・カーや、「古事記」「日本書紀」の名前を出してまで騒ぎ立てるようなことではなかったが(その手の筋の皆様からお叱りの声をいただきそうだ。素人のたわごとと思ってスルーしていただきたい)、今後の講談社の対応と岩崎氏の動向がちょっと気になる俺であった。

 

なお、E・H・カーの「歴史とは何か」は名著であり、岩崎夏海氏の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は、ドラッカー関係なく単純に読み物としても面白い。

 

興味があったら、下記リンクよりご一読いただきたい。

 

今回は以上だ!

 

最後まで読んでくれてありがとう!

 

 

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