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(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

この映画だけは見ないといけない!

 

今回の記事は、俺的いわゆる「must see(必見!)」を紹介したい。

 

まずは「時計仕掛けのオレンジ」

 

映画ファンで見たことがない人はいないと思う名作だが、実はこの映画は『作家による壮大な復讐劇』なのである。

 

原作者の名前は、アンソニー・バージェス

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

 

彼の妻は、第二次世界大戦中に駐留米軍から脱走した『4人』の若者にレイプされた。

 

当時、彼の妻は妊娠していた。結果、流産。そして自殺未遂。

 

この映画の冒頭で、主人公アレックスが作家の家に押し込み、仲間たち『4人』でその妻をレイプするシーンを彷彿とさせる出来事である。

 

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

 

1959年、脳腫瘍を患いながらも、愛する妻と子供の生活のために書き上げられたこの作品。

 

彼はこの作品のなかで、『若者への復讐』を決行し、同時に『自己のなかにもいる彼ら』を認識する。

 

様々な小話とともに、紹介していきたい。

 

(ネタバレ)『時計仕掛けのオレンジ』のあらすじ

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

近未来のロンドン。

 

ベートーベン(特に第九)をこよなく愛する主人公アレックス・デラージ(マルコム・マクダウェル)は、友人3人とともに街のなかで暴虐の限りを尽くす生活を送っていた。

 

ホームレスを襲撃し、敵対グループを痛めつけ、作家宅に押し入りその妻をレイプする。

 

ある日、忍び込んだ家で金持ちの老婦人を殺害、仲間の裏切りもあり、ついにアレックスは逮捕されてしまう。

 

刑務所に入った彼を待っていたのは、『ルドヴィコ療法』なる犯罪者を改悛させる新たな試みだった。

 

『ルドヴィコ療法』とは、不安感や苦痛を与える薬物を注射して、暴力的な映像を強制的に視聴させるというもの。

 

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

 

暴力的な行為に対して強制的に嫌悪感を持たせる、という学習心理学者スキナーが提唱した「オペラント条件付け」を思わせる治療法だ。

 

結果、アレックスは一切の暴力性や性的欲望を失うことになった。しかも、映像を見せられている際にBGMとして使用されていたせいで、大好きだったベートーベンの『第九』を聞くことさえできない体にされてしまった。

 

そうしてアレックスは、再び世に解き放たれる。

 

しかし、彼の行く場所はもうどこにもなかった。

 

彼が悪逆の限りを尽くしたホームレス、かつての仲間たち、妻をレイプされた作家から、復讐されるアレックス。

 

部屋に閉じ込められて『第九』を聞かされるという拷問の最中、ついに彼は2階の窓から飛び降り自殺を試みる。

 

未遂で終わったものの、『ルドヴィコ療法』は世間の批判の的となり、アレックスは入院して治療を受ける。

 

物語の最後に、彼はついにかつての暴虐だったころの自分を取り戻すに至る。

 

人工言語ナッドサット

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

原作および映画のなかには、言語学者でもあったアンソニー・バージェスがロシア語をもとに捏造した人工言語ナッドサックがたくさん登場する。

 

  • ガリバー痛 頭痛
  • イン・アウト 性行為
  • ビディー 見る
  • ドルーグ 仲間
  • ヤーブル 睾丸
  • ガディワッツ 腹

 

これらの言葉が、物語に強い独自色を与えている。

 

なお、アンソニー・バージェスは独学で八か国語をマスターしていたらしい。

 

ナッドサックについて詳しく知りたい方はこちら(Wikipedia)

 

原作との違い

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

スタンリー・キューブリック製作による映画と、アンソニー・バージェスによる原作とではいくつかの点で違いがある。

 

原作では、映画では描かれなかった最終章がある。

 

原作の最終章では、大人になったアレックスが定職について家庭を持とうと決心する。

 

アンソニー・バージェスは「純粋な善人がいないように、純粋な悪人もいない」と主張する。

 

これに対して、スタンリー・キューブリックは原作の最終章を「蛇足」として切り捨てた。

 

スタンリー・キューブリックは、アレックスを「悪のカリスマ」として押し出していきたかった。

 

アレックスが警官になった昔の仲間からリンチされるシーンで、元の仲間の制服には「665」「667」の番号が振られている。

 

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

真ん中に挟まれたアレックスの番号は「666」、獣の数字だ。

 

アレックスを「邪悪の権化」として、アンチ・キリスト・スーパースターに仕立て上げたかったのだろう。

 

他にも、スタンリー・キューブリックは原作にあった「アレックスが10歳の少女をレイプする」シーンや、「動物を快楽のために殺す」シーンを全てカットしている。これも「悪のカリスマ」にはふさわしくないシーンであるとの判断が働いたものを思われる。

 

アンソニー・バージェスは「現実の人間らしいアレックス」を描き、スタンリー・キューブリックは「人々の無意識に潜んでいる抑圧された欲望の象徴としてアレックス」を描いた。

 

スタンリー・キューブリックは、映画「シャイニング」の際にも、原作者のスティーブン・キングとぶつかっている。クセの強い映画監督だ。

 

裏話

『時計仕掛けのオレンジ』には、いくつかの裏話が存在する。

 

「ビリーボーイズ」襲撃事件

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

映画の冒頭で、アレックスたちは不良グループ「ビリーボーイズ」と乱闘する。

 

これは1964年に避暑地ブライトンで起こったモッズ対ロッカーズの衝突事件を元にしている。両不良グループの恰好は、現実の事件を見事にオマージュしたものであり、これにより映画の内容が「現代」のロンドンの姿であることを描き出している。

 

そもそも『時計仕掛けのオレンジ』とは何か

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

映画の題名にもなっている『時計仕掛けのオレンジ』とは、そもそも何か。

 

『時計仕掛けのオレンジ』とは、ロンドンの下町言葉「コックニー」の言い回しである。

 

何を考えているかわからない変人を指す。

 

また、アンソニー・バージェスが5年間住んでいたマレーシア語で、人間のことを「Orang」と呼ぶ。

 

よって、『時計仕掛けのオレンジ』=機械のように感情を統制されてしまった人間を意味する。

 

これは、ルドヴィゴ療法により自由意思を失ったアレックスのことを言っているのではないか。

 

 

現実の社会に与えた影響

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

イギリス、ランカッシャーでオランダから来ていた17歳の少女は少年たちに輪姦された。輪姦している間、少年たちはアレックスのように「雨に唄えば」を口ずさんでいた。

 

イギリス、オックスフォードではアレックスのような白いツナギを来た16歳の少年が、六十歳の老人を踏み殺した。

 

アメリカ、ミルウォーキー出身のアーサー・ブレマー22歳が大統領候補ジョージ・ウォーレスを銃撃、重症を負わせた。押収された彼の日記には、『時計仕掛けのオレンジ』を見て殺人に興味をおぼえたと書いてあった。

 

なお、この日記をもとにポール・シュレイダーは、ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』の脚本を執筆した。

 

批判の的になったスタンリー・キューブリックは、「芸術家は作品の芸術性にだけ責任を持てばいい」と突っぱねたが、1974年、『時計仕掛けのオレンジ』をイギリスで永遠に上映しないように約束させた(1993年に破棄)

 

『時計仕掛けのオレンジ』が問いかけてくるもの

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

主人公アレックスはまさに邪悪な意思の象徴ともいえる。

 

しかし、その彼に対して与えられたルドヴィゴ療法はいかであったか。

 

犯罪者の自由意思を奪えば、それで全ては解決するのか。

 

彼から自由意思を奪う国家権力とは、ある意味、彼よりもはるかに凶悪な存在ではなかろうか。

 

日本における『死刑制度』などがその例としても考えられる。

 

犯罪が発生すると、その犯人に対して徹底的な制裁を加えたくなる。

 

その犯罪が凶悪であればばあるほど、俺たちは「厳罰(死刑)」を望む。

 

それはそのまま、俺たちの『理解できなものへの恐怖』の裏返しだ。

 

自分の妻をレイプされた原作者アンソニー・バージェスは、この作品でその復讐を果たそうと試みている。

 

部屋に閉じ込めたアレックスを「第九」で拷問し、自殺未遂に追いやった作家。

 

(解説)時計仕掛けのオレンジ(ネタバレ)

彼の名前は、作中の新聞で「アレクサンダー・バージェス」と紹介されている。

 

アレクサンダーとは主人公アレックスの本名そのものであり、アンソニー・バージェスは復讐する作家でもあり、アレックスその人でもあるということになる。

 

アンソニー・バージェスは、『復讐を望んでいる自分のなかにもアレックスと共通するものが潜んでいること』を暗に示しているのである。

 

現代にも、これにあてはまる事例がたくさんあるのではないか。

 

SNSの炎上、自粛警察、犯罪者に対する怒号。

 

地団太を踏んでこの世の不条理を嘆く人間たちは、その時に自分が踏み潰した虫の名前さえ知らないのだ。

 

 

 

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