諸事情あって、ブログに事件・事故カテゴリーを創設した。
記念すべき(?)第一記事目は、ここのところ大いに世間を騒がせている事件から。
泣く子も黙る芸能界の大御所が揺れに揺れている。
「ジャニーズ事務所、ジャニー喜田川氏による所属タレント性加害問題」である。
ジャニーズ事務所の性加害問題とは何か
事件の呼び名はメディアによって変わる。
ジャニー喜多川氏の性加害問題、ジャニーズ性加害問題、ジャニーズ性被害問題、ジャニーズ性問題、ジャニーズ問題、ジャニーズ性暴力疑惑、ジャニーズ性加害スキャンダル、ジャニーズ事務所の性虐待スキャンダル、ジャニーズのスキャンダル、などなど。
事の発端は、2023年3月にイギリスの公共放送BBCが、ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性的虐待問題を追った特集番組『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル(ドイツ語版)』を放送したことによる。
日本の大手メディアはこれを「あえて」取り扱わなかったが、週刊文春はこの問題について取り上げ、新たな記事を発表。
2023年4月、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が記者会見を開き、性的虐待被害を告発した。
それを皮切りに匿名・実名での複数の性的虐待被害の告発が多数なされた。
実はジャニーズ事務所に対する性的虐待問題は、かなり昔から言及されていることではあった。
創設初期から、ジャニー喜多川氏が所属する未成年男子タレント達に対して猥褻な行為を行っているという噂があった。
1999年、『週刊文春』が「ジャニー喜多川氏が未成年男子に対して性器を弄んだり、肛門性交するなどの虐待をしていた」と報じた。
ジャニーズ事務所はこれに対して名誉棄損で訴えたが、東京高裁がジャニー喜多川氏の性的虐待を認定。ジャニーズ事務所は最高裁に上告したが棄却され、高裁判決が確定。
1999年の時点で「ジャニー喜田川氏が性加害を行っていることがわかっていた」のだ。
しかし、メディアの大部分がジャニーズ事務所に忖度してこの件について報道せず、社会的な問題になることはなかった。
この性的虐待事件が特異な点は、ジャニーズ事務所という社会的に大きな影響を与える存在(その創設者)が起こした事件であるという点と、この『既知の事実であったにも関わらずメディアの忖度により性的虐待がずっと野放しにされていた』点である。
ジャニーズ事務所と番組打ち切り、スポンサー離れ
ジャニーズ事務所は、新社長に東山紀之氏をすえ、新体制で今後も運営を続けようとしている。
東山紀之氏は「あの人は誰も幸せにしなかった」「やっていることは鬼畜の所業」とジャニー喜田川氏を批判したものの、ジャニー喜田川氏の娘である藤島ジュリー景子氏を代表取締役に残したこと、さらに社名を変更なく維持したことが、スポンサーたちの不信を招いている。
特に社名を変更しないという点は、会見において報道陣からも「性犯罪者の名前を冠詞にするのは非常識。ヒトラー株式会社、スターリン株式会社もない」「ジャニーズの名前を聞いただけで、フラッシュバックする被害者もいる」などと指摘された。
代表取締役に残ることになった藤島ジュリー氏は、ジャニー喜田川氏の性加害疑惑について「知らなかった」と発言しているが、週刊文春が疑惑を報じた1999年、ジュリー氏は既にジャニーズ事務所で取締役の立場にあった。
「知らなかった」で通るはずもない。
海外では性加害問題は日本以上にデリケートな重大問題であり、ジャニーズ所属タレントの海外進出が不可能であることは当然として、海外との取引が多いスポンサー企業も今後の対応を考えざるを得ない。
すでにジャニーズタレントの起用を見送る意思を露わにしているのは、アサヒグループホールディングス、キリンホールディングス、サントリーホールディングス。
東京海上日動や日本航空、日本マクドナルドといった企業も今後の対応は厳しいものになるであろうことを明らかにしている。
以下は、サントリーホールディングス、経済同友会代表幹事、新浪剛史氏の言葉。
「所属タレントの起用はチャイルド・アビューズ(児童虐待)を企業が認めるということ。人権侵害は認められない」
「調査の内容や対応が不十分で、真摯(しんし)に反省しているかどうか疑わしい」
(所属タレントの広告での起用に対し)「チャイルド・アビューズを認めることになり、国際的にも非難の的になる」
「断固として毅然たる態度を企業として示さなくてはいけない」
「所属タレントが事務所を移籍することも一つの手段ではないか」
ジャニーズ事務所と、所属タレントは今後大変に厳しい対応を迫られることだろう。
「法の枠を超えて補償」
2023年9月7日の会見で、東山紀之社長は「法の枠を超えて補償を行う」と発言した。
その発言を受けて、9月13日、「被害補償及び再発防止策」をジャニーズ事務所が発表。
今後、金銭的な賠償について具体的な話し合いが進められていく。
「法の枠を超えて」ということは、民事・刑事裁判ではなく「示談」という流れで、もはや時効となっているであろうケースにも、何らかの賠償を行うという意図がある。
ジャニーズ事務所も、「事実確認に時間をかけることなく、速やかに救済補償する」との意向を出しているので、「法の枠を超えて補償」とはやはりそういった意図があるのだと解釈していいのだろう。
今後、恐らくは長い期間かけて『何があったのか』『どのような被害があったのか』を、被害者に対するヒアリングを通じて調査し、被害内容に合わせた賠償金の支払いなどが行われていくものと思われる。
なお、こういった性被害における賠償額は民事裁判では300万円程度が一定の水準となるが、裁判ではなく示談という流れであれば、本来の水準より高い金額が提示される可能性がある。
一方で、今回は性被害の内容があまりに幅広いため(様々な行為に及ぶため)、全ての被害に関して詳細まで突き詰めるととてつもない時間がかかってしまう。
ゆえに、被害の程度に関わらず、賠償額が一定になる可能性もある。
今回の事件における被害者の想定人数は最大で1000人ほどとなるので、民事裁判の基準である300万円をそのままかけると、賠償総額は30億円ほどとなる。
ジャニーズ事務所は、本社ビルだけで150億円。都内に500億円以上の不動産を所有している。
総資産は推計で約1000億円。
被害者に対する補償としては十分な金額だが。
問題は今後どうなるか、である。
今後、ジャニーズ事務所に求められるもの
今後、ジャニーズ事務所に求められるのは、事実関係の究明と被害者の救済、信頼回復に向けた企業風土の改革だ。
創業者一族に忖度している場合ではないと思うが、どうか。
そして、今になって手のひら返しをしている芸能界、マスメディアにも課題がある。
その実、ジャニーズ事務所、芸能界、マスメディアだけでなく、この事件は『皆が知りながら、長年見過ごされてきた問題』でもある。
もしかしたら、自分もその「皆」のなかに入るのではないか。
なぜなら、ジャニーズ事務所にそういった動きがあることを、俺もかつて(おそらくは1999年の裁判のとき)小耳に挟んだように記憶しているからだ。
今回の事件は、日本の社会の底を流れる腐敗が、芸能界というステージにおいて、そのごくごく一部が光の下に照らし出されたにすぎない。
今は、被害者に対する救済が一刻も早く行われ、課せられた責務に真摯に向き合う所属タレントたちの想いが報われることを祈るのみである。