社会を変えた危険運転致死傷罪のきっかけと、大分市BMW事故、ドリフト走行規制の最新動向を解説。
危険運転致死傷罪は、1999年に起きた「東名高速飲酒運転事故」がきっかけで制定された法律です。
この法律は、悪質な運転行為による死傷事故を厳しく処罰し、被害者遺族の思いを反映したものです。
ここ最近では、2021年には、大分市で発生した時速194kmのBMW事故が大きな話題となり、危険運転致死罪の適用が注目されました。
2024年にはドリフト走行が新たに処罰対象として議論されています。
本記事では、危険運転致死傷罪が生まれた背景から、社会に与えた影響、そして最新の動向について解説します。
危険運転致死傷罪の成立背景
危険運転致死傷罪が制定されたきっかけは、1999年に発生した「東名高速飲酒運転事故」でした。
この事件では、飲酒運転によって多くの命が奪われ、社会に衝撃を与えました。
その後、2000年には「小池大橋飲酒運転事故」が発生。
この事件でも飲酒運転による被害者が多く出たことで、法整備の必要性が高まりました。
「東名高速飲酒運転事故」とは
東名高速飲酒運転事故は、1999年11月28日に神奈川県の東名高速道路で発生した、飲酒運転による重大な交通事故です。
この事故は日本全国に衝撃を与え、危険運転致死傷罪が制定されるきっかけとなった事件のひとつとして知られています。
事故の経緯
- 発生日時:1999年11月28日、夜間。
- 場所:神奈川県大井松田IC付近の東名高速道路上り線。
- 加害者:30代男性で、事故当時に大量の飲酒をしていたことが確認されています。
- 事故内容:
- 加害者の運転する車両が、飲酒によりハンドル操作を誤り、居眠り運転状態に陥っていました。
- 高速道路を逆走する形で別の車両と衝突。
- 追突された車両は炎上し、車内にいた家族が死亡する悲劇的な結果となりました。
被害状況
- 死亡者:同乗していた家族全員が犠牲となり、特に幼い子どもたちが含まれていたことで、社会の怒りを呼びました。
- 生存者:当時の生存者も重傷を負い、事故後もトラウマに苦しむこととなりました。
社会的影響
この事件は、「飲酒運転の危険性」を社会に強く訴えるものとなり、全国的に飲酒運転に対する規制強化の声が高まりました。
また、この事故が報道されたことで、多くの人々が交通事故被害者の苦しみに共感し、法整備の必要性が議論されました。
危険運転致死傷罪への影響
この事故を含め、1999年から2000年にかけて発生した一連の飲酒運転事故は、危険運転致死傷罪の成立を後押ししました。
特に東名高速事故では、被害者遺族が署名活動を行い、全国から賛同を集めました。
これにより、2001年に危険運転致死傷罪が刑法に新設され、飲酒運転や悪質な運転行為が厳しく取り締まられるようになりました。
「小池大橋飲酒運転事故」とは
小池大橋飲酒運転事故は、2000年10月に埼玉県熊谷市の小池大橋で発生した、飲酒運転が原因の重大な交通事故です。
この事故も、日本で飲酒運転の危険性とその被害の深刻さを浮き彫りにし、危険運転致死傷罪の成立を後押しするきっかけの一つとなりました。
事故の経緯
- 発生日時:2000年10月18日、深夜。
- 場所:埼玉県熊谷市の荒川に架かる小池大橋。
- 加害者:
- 無免許運転の20代男性で、事故前に大量の飲酒をしていました。
- 同乗者もおり、事故当時には危険な速度で橋を走行していたことが明らかになっています。
- 事故内容:
- 加害者の車が小池大橋上で暴走し、対向車線の車両に衝突。
- 衝突後、加害者の車は制御不能となり、橋の欄干を破壊し、荒川に転落しました。
被害状況
- 死亡者:加害者の車の同乗者3名が即死。
- 負傷者:衝突された対向車の運転手も重傷を負いました。
- 加害者自身:命は助かったものの、逮捕後に飲酒運転や無免許運転の事実が発覚しました。
社会的影響
この事故は、飲酒運転に対する社会的非難を一層強めるきっかけとなりました。
特に、加害者が無免許でありながら飲酒運転をしていた事実に対し、厳しい批判が集まりました。
また、この事件の被害者遺族が署名運動を開始し、「飲酒運転による死傷事故に厳しい刑罰を求める」という声を全国に広げました。
署名活動は多くの賛同を得て、約50万人分の署名が法改正を求めて国会に提出されました。
危険運転致死傷罪成立への影響
小池大橋飲酒運転事故は、1999年の東名高速飲酒運転事故と並び、危険運転致死傷罪が制定される直接のきっかけとなった事件です。
この法律が制定されることで、飲酒運転や無謀運転による死傷事故に対する厳しい処罰が可能になりました。
特に、悪質な運転行為が招いた結果に対して「過失」ではなく「危険運転」として処罰することが社会に認められるようになったのは、この事故の影響が大きいといえます。
大分市での時速194kmBMW事故
2021年、大分市で発生した時速194kmの高速事故は、危険運転致死傷罪が適用されるべき事例として注目されました。
この事故では、法定速度を大幅に超える速度でBMWが走行し、被害者の小柳憲さん(当時50歳)がシートベルトを着用していたにもかかわらず、車外に投げ出されて死亡するという痛ましい結果となりました。
事故の詳細
当時19歳の被告が運転するBMWは、法定速度60キロの県道を時速194キロで走行し、交差点で右折しようとしていた小柳さんの車と衝突しました。
この衝撃により小柳さんの車は数十メートルも吹き飛ばされ、衝撃で車外に放り出された小林さんは胸や腰を折り、出血性ショックで、翌日に死亡が確認されました。
シートベルトの破損と被害者の状態
裁判の初公判後、被害者の姉である長文恵さんは、弟がシートベルトを着用していたにもかかわらず、衝突の衝撃でシートベルトがちぎれ、車外に投げ出されたことを明らかにしました。
腰から下が粉砕状態であったことも述べています。
裁判の経過
事故後、被告は自動車運転処罰法違反(過失運転致死)で在宅起訴されました。
しかし、被害者遺族や社会からの強い要望を受け、より重い危険運転致死罪への訴因変更が行われました。
裁判では、被告が法定速度の3倍以上の速度で走行していたことが争点となり、検察側は「制御困難な高速度」での運転であると主張しました。一方、弁護側は「BMWは最高速度250kmで、190kmは制御困難な高速度ではない」として、過失運転致死罪の適用を求めました。
速度の問題ではないと思うんですがね…。
大分地裁で裁判員裁判による初公判は、「194キロは制御困難なスピードか否か」という議論を経て、2024年11月16日に検察側は危険運転致死罪が認められたなら懲役12年、認められなかった場合の予備的訴因として過失運転致死罪なら懲役5年を求刑して結審しました。
遺族の思い
被害者の姉である長文恵さんは、「一瞬の事故で、シートベルトがちぎれて車外に放り出されて腰から下は粉砕ですよ。最高速度194キロのこの事故が、うっかり過失なわけないんです」と述べ、弟の無念さと事故の重大性を訴えています。
ドリフト走行が処罰対象に:最新動向
2024年、危険運転致死傷罪の適用範囲を見直す動きがあり、「ドリフト走行」が新たに処罰対象に加わる可能性が報じられました。
これは、タイヤを横滑りさせながらスピードを競う危険な運転行為が、重大な事故を引き起こしているためです。
法務省の有識者検討会は、ドリフト走行を危険運転致死傷罪の対象にすることで、より多くの事故を防げると提言しました。
実際、過去にはドリフト走行が原因での死傷事故が複数報告されています。
例えば、夜間に一般道でドリフトを繰り返した車両が歩行者をはね、死亡させたケースがあります。
こうした事件が繰り返されないよう、法改正を通じて危険運転を未然に防ぐことが期待されています。
ドリフト走行を処罰対象にすることで、危険運転の抑止力をさらに高めることができるでしょう。
危険運転致死傷罪の今後と課題
危険運転致死傷罪は、重大な交通犯罪に対応するための重要な法律です。
しかし、現状では適用条件が厳しすぎるため、一部の重大事故が適用外となるケースもあります。
今後も社会情勢や技術の進化に応じて、危険運転致死傷罪はさらなる見直しが求められるでしょう。
重要なのは、被害者やその家族の声を反映し、交通事故の悲劇を防ぐための仕組みを整えることです。