前回は、格安SIM(MVNO)の「現在」ということで、格安SIMにもいくつかの種類があることをお話した。
今回は、格安SIMの『未来』ということで、先日発表された「接続料金の値下げ」を踏まえた上で、お話をしていきたい。
目次
かつて、格安SIMのライバルは格安SIMでしかなかった
通信業界の寡占状態を解決すべく、総務省が放ったのが「独自回線を持たない通信業者=格安SIM(MVNO)」の存在なわけだが、彼らの登場はキャリアにとって確かに脅威だった。
キャリアよりも明らかに価格の安いサービスが提供できる格安SIM。
けれども、キャリアだって黙って手をこまねているわけがない。
auはUQmobile、ソフトバンクはY!mobileのサブブランドを立ち上げて、格安でのサービスを行うことで格安SIMに対抗しようとした。
UQmobile、Y!mobileという厄介な敵はできたわけだけど、それらはキャリアほどの力を持つわけではないので、格安SIMにしてみれば脅威というレベルではなかった。
こうして価格の安いゾーンのシェアを奪い合う形で、通信業界は、高価格高サービスのキャリアと低価格でそれなりのサービスを提供するサブブランド、格安SIMでうまく棲みわけができた。
格安SIMのライバルは、格安SIMでしかなかったわけだ。
しかし、総務省的には面白くない。
3大キャリア寡占の状態が、これではほとんど解決されていないからだ。
新料金プラン導入→キャリア vs 格安SIMの構図へ
総務省は、3大キャリア寡占の状態解消、通信業界の流動性を取り戻すべく、通信料金値下げをキャリアに迫った。
最初、auやソフトバンクは、サブブランドのUQmobileやY!mobileの価格を下げることでこれに対抗しようとしたが、総務省は「キャリアが価格を下げねば意味がない」とこれを突っぱねた。
そうして、みながよく知るドコモ「ahamo」au「povo」ソフトバンクの「LINEMO」が登場する。
焦ったのは格安SIM(MVNO)各社だろう。
低価格は格安SIM(MVNO)の十八番だからだ。
キャリアほどのサービスの良さ(特に回線の繋がりやすさ、安定性など)を持ちながら、低価格という同じ土俵に立たれたら格安SIMに勝ち目があるわけがない。
ヘビー級のボクサーとストロー級のボクサーが、足を止めて正面からインファイトするようなもんだ。
2021年1月以降、格安SIM(MVNO)各社は、先を競うようにキャリアに対抗できるような独自の新料金プランを発表した。
あれはただでさえ細身の身体からさらに骨を削るような、契約者流出を避けるための必死の呼びかけであったのだ。
格安SIMは、現在絶対的な苦境にある。
目の前に現れた巨人と果たしてどう戦えというのか。
格安SIMの希望は「接続料の値下げ」と「5G、法人向けのサービス」にある
「接続料値下げ」が通った!!
この苦境において、声を大にして格安SIMたちは「接続料の値下げ」を求めた。
自前の回線を持たない格安SIMにとって、回線を借りるための「接続料」は原材料費のそれとイコールである。
新料金プランはどれも格安をさらに格安にした料金であるので、なんとかコストの削減をしないと経営がうまく回らなくなる。
まさに死活問題だ。
総務省の有識者会議で、声高に接続料の値下げを訴える格安SIM。
対するキャリアは安価な新料金プランで自身の利益が削られており、その上コスト削減さえできなくなくなる「接続料の値下げ」にはさすがに渋い応えを返す。
「新料金プランは、格安SIMの経営を必ずしも圧迫するものとは言えない」
ドコモが言ったのは、大体こんな内容だった。
しかし、結局は総務省の意向が絶対的なものとして通る。
総務省は接続料金の値下げを訴え、今回ついにキャリアが折れた。
「接続料金の値下げ」が発表されたのだ。
これにより、皮一枚ではあるが、なんとか格安SIMの首がつながった。
もっとも、全体的にパイの大きさ(ここでは契約者が納める通信料金の総額)が減っているわけなので、分け前は前よりも多いとは言えず、厳しい状況であるのに変わりない。
そもそも、接続料金って決め方がキャリアによってまちまちで、何を基準にしているのかいまいち外部からはわかりにくくなっている。
今回、50%以上も接続料金を削ることに成功したわけなのだが、いきなりその大台を達成できたということは、そもそもがそんなに高い接続料を請求する状況ではなかったのではないかと勘繰ってしまう。
5G。法人向けサービスに光
IIJなどの格安SIMは、法人向けにサービスを提供することで生き残りにつなげる。
接続料値下げはありがたいだろうが、結局のところ、回線を持たない以上はキャリア(MNO)に首根っこ押さえつけられている状況に変わりはない。
接続料値下げ以外の点でも、何らかの生き残り手段を確保しなければならない。
これから先5Gが普及していくと、その特性を利用した新しい技術が生まれる。
その技術を担う企業が、通信事業者のサービスを必要とするようになるだろう。
その企業相手にうまく立ち回れば、なんとか生き残りの目も出てくるかもしれない。
一方で法人相手に商売できなくなると、これはもう相当に厳しい事態になる。
なんとか独自のサービスを安価で生み出して、契約者を確保していくしかない。
格安SIMの生き残りは、想像以上にいばらの道であると言わざるを得ない状況だ。
接続料値下げによるキャリアへの影響
キャリアはキャリアで、接続料を値下げしたら大変ではないのか?
大変であることは事実だが、実際のところをいうと、もう随分と前から通信事業の拡大には限界が見えていた。
キャリアはそれを見据えて、随分と前から通信以外の事業に手を広げていたのである。
例えば、auは「auフィナンシャルホールディングス」を2019年に設立、金融サービスに力を入れている。
ということで、接続料金の値下げはキャリアにとってコスト増加とイコールだが、それがキャリアの経営を圧迫するとまでは言えない状況だ。
やはり通信業界の巨人、そうやすやすと揺らがないようになっている。
消費者である俺たちへの影響
ここまで全3回、格安SIM(MVNO)の「過去」「現在」「未来」についてお話をしてきたが、格安SIMの「未来」は決して明るいものと言えない。
それが俺たち消費者にどのような影響を与えるかというと、あまり良くない影響と言わざるを得ない。
ここで格安SIMがばたばた潰れると、結局は3大キャリア寡占の状態に逆戻りするだけだ。
そうなると、3大キャリアはまた料金をあげてくる可能性がある。
総務省が価格を下げるように命じたところで、業者そのものが少なければ通信業界の流動性はなくなる。
ユーザーの選択肢も限られたものとなる。
格安SIMにはがんばってもらいたいが、さて今後の展開はどうなるか?
全3回お話してきたが、格安SIMの過去と現在、未来に関して、少し自分の知っているところを書いてみた。
まだまだ勉強不足だな~。
今回書いたお話に関しておかしなところがあったら、コメントでぜひ突っ込んでいただけると幸い。
ということで、今回は以上だ。最後まで読んでくれてありがとう!!